夏の暑い日のツーリング。
青空と白い雲、そして佐賀の山の緑があまりにも鮮やかで、思わず笑ってしまうほどでした。
福岡から佐賀方面へ伸びる国道263号線は道幅も広く、とても走りやすいルート。
バイクで走ると自然と気分が上がり、ついアクセルを開けたくなります。
とはいえ真夏のツーリングは過酷で、信号待ちでは汗が一気に噴き出します。
「干からびるんじゃないか」と思うほどの暑さも、走り出せば風が体を冷やしてくれる。
そんな夏のツーリングの途中、思いがけず出会ったのが、
佐賀の伝統工芸「名尾手すき和紙」でした。
佐賀ツーリングで出会った名尾手すき和紙

なぜ出会ったのか
きっかけはとてもシンプルでした。
国道263号を走っていると、交差点に「名尾手すき和紙」と書かれた看板が目に入ったのです。
なぜかその看板に強く惹かれました。
ツーリング中のこういう直感は、不思議と当たることが多い。
距離を見ると、そこから約4km。
「それなら行けそうだな」と軽い気持ちでハンドルを切りました。
この“寄り道”が、今回のツーリングで一番印象に残る時間になるとは、そのときは思ってもいませんでした。
名尾地区とは
名尾(なお)地区は、佐賀県佐賀市大和町にある山あいの集落です。
少し走るだけで空気が変わり、自然の深さを感じられる場所でした。
特に印象的だったのが、川の水の美しさです。
透き通るような水が流れ、思わずバイクを止めて見入ってしまいました。
途中では保育園の子どもたちが川遊びをしていて、楽しそうな声が響いています。
その光景を見ていると、こちらまで心が軽くなるようでした。
「少しだけでも水に触りたい」
そう思わせるほど、ひんやりとした気持ちよさが伝わってきます。
工房とギャラリーが併設

目的地に到着すると、そこには工房とギャラリーが併設された建物がありました。
工房では、実際に和紙づくりの様子を見学することができます。
職人さんはとても気さくな方で、乗ってきたCT125にも興味を持ってくれました。
ちょうどその日は、近隣の中学校の卒業証書を制作しているところでした。
手すき和紙に紋章が入ったその姿は、とても味わい深く、特別な一枚になることが伝わってきます。

ギャラリーも素晴らしく、静かで心地よい空間が広がっていました。
スタッフの方は程よい距離感で接してくれて、和紙の歴史や魅力を丁寧に教えてくれます。
真夏の暑さの中でいただいた梶の冷たいお茶が、体に染みわたりました。

さらに印象的だったのは、空間全体の演出です。
流れているBGMは、和紙を作る工程で生まれる音を編集したもの。
そして、和紙の原料から作られたお香の香り。
視覚だけでなく、音や香りを通して和紙の世界を感じることができる、まさに五感で楽しむ場所でした。

ギャラリーの奥は和紙だけで作られた空間がある

ギャラリーの奥へと進むと、少し空気が変わるのを感じました。
光がやわらかくなり、音がすっと遠のいていくような、不思議な静けさに包まれます。
そこにあったのは、和紙だけで構成された空間でした。
壁に使われた和紙は、光を優しく受け止めて、ぼんやりとにじませる。
はっきりと明るいわけではないのに、どこか安心感のある明るさがあります。
まさに「陰翳礼讃」という言葉がぴったりの空間でした。
光と影のバランスがとても美しく、日本人の感性に静かに訴えかけてきます。
耳を澄ますと、ほとんど音がありません。
むしろ音が吸い込まれていくような感覚で、自分の呼吸だけがわずかに感じられるほど。
その静寂が心地よく、自然と気持ちが落ち着いていきます。

触れてみると、和紙はひんやりとしているのに、どこか温かみも感じる。
この「冷たさと温かさが同居している感覚」は、他の素材ではなかなか味わえないものだと思いました。
ただ見るだけではなく、空間そのものとして体験する和紙。
ここは、和紙の魅力を一番深く感じられる場所かもしれません。
和紙の雑貨も販売

ギャラリーでは、和紙を使ったさまざまな雑貨も販売されています。
扇子やレターボックス、封筒や便箋など、日常で使えるアイテムが中心で、どれも上品なデザイン。
手に取ると、和紙ならではのやさしい質感が伝わってきます。
どれも派手さはありませんが、長く使いたくなるような落ち着いた魅力があります。

ツーリングの記念として、こうした雑貨をひとつ持ち帰るのも良いと思います。
旅の思い出が形として残り、使うたびにその日の風景や空気を思い出せる。
バイクで走った道、見た景色、感じた空気。
その記憶をそっとつないでくれるのが、こうした小さなアイテムなのかもしれません。
300年以上続く名尾手すき和紙の歴史

江戸時代から続く和紙文化
名尾手すき和紙の歴史は古く、江戸時代から300年以上続いています。
かつてはこの地域に100軒以上の工房があったそうです。
しかし現在、その伝統を守り続けている工房はわずか1軒。
長い歴史の中で、時代の変化とともに数が減ってきたことがわかります。
それでもなお、今も変わらず手作業で和紙を作り続けていることに、強い価値を感じました。
全国でも珍しい手すき和紙
名尾和紙の特徴は、原料に「梶(かじ)」という木を使っていることです。
これは楮の原種とされるもので、繊維が太く長いのが特徴。
そのため、薄くても非常に丈夫で破れにくい和紙が出来上がります。

工房の周囲には、その原料となる木が育てられている庭があります。
収穫は年に一度で、近隣の人たちも手伝いに来るそうです。
最高齢は90歳を超える方だそう。
話を聞いていると、思わず「自分も手伝ってみたい」と思ってしまいました。
CT125で走る佐賀の山ツーリング
かかしに出会える村
名尾へ向かう道中では、かかしが並ぶ風景に出会いました。
季節ごとに入れ替えられるそうで、どこかユーモラスで温かみがあります。
こうした風景も、地方ツーリングの楽しさのひとつです。
平日の国道はでっかいダンプも通る
国道263号は走りやすい道ですが、平日は大型のダンプカーも多く通ります。
すれ違うときの風圧には少し注意が必要です。
それでも全体的にはとても走りやすく、適度なワインディングが続きます。
路面もきれいで道幅も広く、安心して走ることができました。
CT125のようなバイクにはちょうどいいリズムで走れる道です。
名尾手すき和紙の魅力

手触り
実際に手に取ってみると、その質感に驚きます。
しなやかでやさしく、そしてどこか温かい。
繊維の重なりが美しく、一枚一枚がまるで作品のようです。
同じものはひとつとして存在しない、まさに一点ものの魅力があります。
質感

見た目にも美しく、しっかりとした厚みがあります。
光をやわらかく取り込むような質感で、静かな存在感を感じました。
派手ではないけれど、じんわりと心に残る。
そんな魅力があります。
現代の使い方
和紙は書くためのものというイメージがありますが、それだけではありません。
包む、貼る、飾る。
使い方は自由で、空間を仕切るタペストリーのように使うこともできます。
私は一枚の和紙を購入し、絵画のように額装して飾ることにしました。
日常の中に、少しだけ特別な空気が生まれた気がします。

職人さん
この和紙を作り続けている職人さんの存在も、とても印象的でした。
工房には昔の写真が飾られていて、長い歴史が今につながっていることを感じます。
佐賀の伝統工芸を守り続ける姿には、静かな力強さがありました。
名尾手すき和紙の工房情報
■場所
〒840-0205 佐賀県佐賀市大和町大字名尾4674-1
■営業時間
9:00~17:00
■見学について
少人数であれば予約不要。
職人さんがいる平日は見学できることが多いそうです。
■MAP
まとめ|佐賀ツーリングで訪れたい場所
名尾手すき和紙の工房は、ツーリングの目的地としてとても魅力的な場所でした。
バイクで走る道も楽しく、空と山の景色がとても美しい。
途中で見かけた川の水の透明さも印象に残っています。
そして何より、この場所は四季を通して訪れたくなる魅力があります。
春のやわらかな新緑、
夏の青空と山のコントラスト、
秋の紅葉と銀杏の黄色、
冬の静かな風景。
どの季節にも、それぞれの美しさがあります。
名尾手すき和紙そのものも素晴らしいですが、そこへ向かう道もまた特別な体験でした。
ツーリングは、目的地だけでなく、その過程も含めて楽しいもの。
そんなことを改めて感じさせてくれる、佐賀の素敵な場所でした。
